そして彼女は「憶」を選んだ。

この中の、どの字が一番目に入りますか?

そう言って、わたしは1枚の紙を渡した。
その中にはある法則に基づいて、
99の漢字が書かれていた。

わたしは言葉の使い方を伝えている。
だから、言葉の選び方もわかる。
人は思考や感情によって言葉を選ぶのだから、
想いを読み解くことが出来るのだ。

前作の言葉カードで、彼女は生き様という言葉に反応した。
語り尽くせない思いが、これまでにあったのだろう。
そうでもないと「生き様」なんて言葉、普通は選ばない。
だから、今回選ぶ漢字も過去に関するものだろうと、大体予想出来た。
そして彼女は「憶」を選んだ。

思わず笑みが溢れた。
だって、その字を選ぶことは、
どんな出来事も、
辛いながらも楽しみながら乗り越えてきたということだろう。

もし、悲しみが残っているのなら、
人は忘れたいけど、忘れられない、そう思うのではないだろうか。
また、今も苦しいと思うのなら、自分や誰かを責めているかもしれない。
あるいはきっと後悔しているだろう。

でも、彼女は「憶」を選んだ。
それは忘れないこと、そして想いおいはかること。

そして、

いずれ、子どもや孫たちに、
わたしのことを思い出してもらいたい。
あの子たちの記憶にとどまってほしいと思っている。

彼女はそう語った。
「憶」は、彼女の願いでもあったのだ。

これからも、いろいろ思うことはあるだろう。
でも嬉しいことも憂うことも、
全て彼女は自分の「憶」にしていくに違いない。

そういう彼女の姿は、
いつにも増して、潔くわたしの目に映った。